Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “秋は まったりと”
 


陽が暮れるのが早くなった。
夏と同じほど昼も長いほうじゃああるのだが、
陽が山の稜線などの陰へ その姿を吸い込まれてしまうと、
途端にすとんと周囲が暗くなるのが、あまりに素早くて。
そういや、これが春だの夏だのだったらば、
陽は沈んでいても、まだまだ白々と明るいものだから、
長くお外に出ていても構わないものが。

 『急に夜が追って来るような気がするんですよね。』

陸に言ったら笑われましたがと、
そこは照れ臭そうに
小さな肩をすくめた書生くんだったのを思い出し。
くつくつと笑っておれば、

 「なんだ、何か入り込んでたか?」

濡れ縁に円座を出し、
やや自堕落な胡座姿で座していた蛭魔だったので。
その視線が向いていた、
もう薄暗い庭に何かの気配でも感じたかと思うたらしく。
提げ手のついた塗りの銚子を運んで来た葉柱が、
低い声音で訊いたのへ、
ああ?と怪訝そうに眉を寄せ、それから理解が追いついて、
そんな自分へか、ふふとしょっぱそうな苦笑を見せる術師殿。
とはいえ、

 「ウチの庭へ のして来るような奴といや、
  結界の咒弊をものともしねぇ級の大物か、
  逆に咒の格に引っ掛かりもしねぇ小物かだがな。」

どっちがやって来ようと同じで、
全く意に介さないということか、
片方立てていた膝、空を蹴るよにぴんと跳ねてから
足首を間近へ引き寄せて。
ようやっと相方のほうへ身を向ける奔放さも いつものこと。
庭のどこかにいるのだろ、
まだ幼い調子ながら、
虫のりぃりぃという涼しげな奏でも聞こえており、
空も藍に染まっての、辺りはすっかりと宵の風情。
昼のうちはまだ、夏の名残りか暑さも居残る日和だが、

 「日輪ってのは大したもんだの。」

夏は高さがあるからの、
姿が見えずとも余光だけでいつまでも暑かったものが。

 「秋ともなれば、その高さも下がるから、
  顔が見えぬとそのまま、
  余韻も残さぬ素っ気なさで去ってゆくつれなさよ。」

綿入りの袷はさすがにまだ早いが、
そろそろ小袖一枚では、夜更かし出来ぬ頃合いでもあり。
こちらを向いた陰陽師殿へ、まずは杯を渡し、
提げて来た銚子から、そこへと つぎ分けたのが
乳のような白い濁り酒。
これでもこの年一番の逸品だとかで、
衒いなく口にした蛭魔が、一瞬きゅうと眉を寄せたのも、

 「う〜ん、こいつは辛いの。」

甘口が多いと油断したところ、
濁りものにしては冴えた逸品だったのが意外だったから。
味は文句なくこなれており、
喉の入口をかりりと引っ掻くのが何とも生意気でいいと、
心からだろ、愉快そうに笑いつつ、
それほど小さくもない杯を、
あっと言う間に飲み干す剛毅さよ。

 「酔うと暑くなんぞ?」
 「構わんさ、夜風が涼しい。」

呵々と笑って取り合わぬのも相変わらずと、
上機嫌この上なしな美丈夫さんへ、
案じてやっても甲斐なしかと、
やれやれと吐息をつく蜥蜴の総帥様。
分厚い肢体を余裕で寛がせ、
いつの間にか昇っていた月の、
鮮明な輪郭を見上げる横顔もまた、
それは精悍にして冴えておいでで。

 “これで女っ気がないなんて、
  トカゲ連中の好みが俺には判らん。”

こそりとそんな想いを胸の内に転がしてしまった、
内心でだけ素直な誰かさんだったのも、
お月様しか知らない、内緒内緒のささやかな奏でか。
お酒のせいでふわふわ酔って、
我儘言いつつ、らしくもなく甘えられる秋の宵。
ややこしい騒動伝える早馬が、
場末のあばら家へ駆け込んで来ませぬようにと、
柄になく願ってみたりするのも、内緒内緒……。





    〜Fine〜  14.09.28.


  *昼の間はまだまだ蒸す関西です。
   とはいえ、もう十月ですしね。
   そろそろ落ち着くんじゃなかろかと…。


 めーるふぉーむvv  
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